第3回:「舟」のはなし【公演まで13日!】
前回は、海をテーマに、日本神話などのいろいろなお話をしました。特にお伝えしたかったのが、『古事記』におけるヒルコとアワシマについてです。本日はヒルコとアワシマのお話第2弾に加え、「舟」をテーマにお話ししていきます。
・ヒルコとアワシマについて②
・天邪鬼と天探女について
1.ヒルコとアワシマについて②
不具の子であったために、葦舟に乗せられて海に流されてしまったヒルコ。
同じように、国土たりえない存在として生まれたアワシマ。
ヒルコとアワシマについては、『古事記』と『日本書紀』で、かなり記述が異なるうえ、その解釈は実に多様で、どの研究成果が正しいと断定するのは、難しいのかもしれません。私自身、日本神話研究を専門としている者でもないため、尚のことです。
國學院大學「古典文化学」事業の神名データベースや地名データベースでは、ヒルコやアワシマについての、さまざまな説や文献が、非常にわかりやすくまとめられています。
そちらを参照すると、どうやら、ヒルコの解釈については、大きく分けると2つのながれがあるようです。
ひとつめは、ヒルコを「蛭子」「水蛭子」と、字義どおりに解する説。蛭のように骨のない子、或いは、歩行困難をいう古代語「ヒルム」や沖縄方言と関係があるとされるなど、名前の由来にはいろいろな説がありますが、どれも、ヒルコを障害のある子と捉えています。
ふたつめは、ヒルコを「日子」として解する説。つまり、太陽神と見るわけです。これは、「蛭子」の「蛭」の字を当て字と捉え、ヒルメ(太陽神である女伸)に対してのヒルコとし、『古事記』『日本書紀』編纂時に太陽神としての性格が天照大神に吸収されて、本来の「日子」から「蛭子」へ変容していったという考え方です。
ヒルコの解釈が異なれば、ヒルコを流す葦舟の解釈も当然異なります。前者の場合、葦舟でヒルコを流したことは、古代における障害児遺棄の習俗の反映と捉えて、その祓いのための葦舟と解釈したり、葉で作った船に害虫を乗せて海に流す虫送りの風習との関係があるとしたりしています。一方、後者の場合では、この舟は、神聖な乗り物として解釈されます。これは『日本書紀』の記述を根拠とするのでしょう。『日本書紀』では、ヒルコを乗せて放った船が、天磐櫲樟船、又は、鳥磐櫲樟船とされています。神話の中では石船や鳥船と呼ばれる船が、神の乗り物として登場することから、ヒルコを乗せた船もまた、神聖な乗り物と考えられるそうです。また、その点を太陽信仰と結びつけて、太陽神のヒルコが海を往来するための太陽船という捉え方もあるのだとか。
このように、ヒルコとアワシマには多様な解釈があり、いろいろ調べていくうちに、何がより正当性のある説なのかわからなくなってきました。そして、別に研究をしようとしているわけでもないし、あらゆる伝承は受容の過程で解釈の歪みを経て再生産されるものなのだし、そもそも『古事記』や『日本書紀』だって複数文脈の神話を融合させて生まれたものらしいから、もうなんだっていいじゃないかと、半ば開き直って前者の説をとることにしました。
2.天探女と天邪鬼
神が石船や鳥船を乗り物として登場する描写があるということを先に述べましたが、例えば、「天探女」がそうでしょう。天探女は天磐船に乗って現れたとされ、万葉集にも、角麻呂の「ひさかたの天の探女が石船の泊てし高津はあせにけるかも」という歌が収録されています。
天探女は、地上に派遣された天若日子に従って、天から降りてきました。しかし、天若日子が、命じられた地上で務めの成果について高天原に何の報告もしなかったため、使者として雉が使わされます。しかし、天探女は天若日子にこの雉を射殺すよう進言し、天若日子はそれに従ってしまいます。このことで、天若日子は高天原に対する反逆者となってしまいました。
天探女も、また、さまざまな解釈や、民間伝承との融合が見られます。例えば、鳥の鳴き声などから吉凶を判断する霊能を持った巫女的な存在とする説や、瓜子姫の昔話に出てくる「天邪鬼」の原像とする説などです。
「天邪鬼」は、現代では本心とは異なる言動をしてしまう人のことを言いますが、もともとは、人の心を読んでいたずらを仕掛ける小鬼の名称です。しかし、この天邪鬼に関する伝承も、地域によってかなり違いがあり、小鬼ではなく巨人だとか、さまざまな言い伝えがあるようです。
さて、「むちゅうのドリー」には、「ジャッキー」という登場人物がいます。ジャッキーは第1回で紹介した「カモメ」と同じように、主人公ドリーの同級生です。
ジャッキーは、「天邪鬼のジャッキー」。
どの「天邪鬼」かは、ぜひ劇場でお確かめください。
ここまで、「舟」にかかわる日本神話の登場人物(神?) のお話をしてきました。神話の中で「舟」というのは非常に重要なモチーフとして現れますが、それは後世の文学いおいても同様です。前回、日本文学史の講義で紹介されたヒルコとアワシマの話から「むちゅうのドリー」の着想を得たと書きましたが、その講義をされていたM先生のご専門は『源氏物語』です。『源氏物語』の夕顔が和漢朗詠集から引用した「白浪のよするなぎさに世をつくす海人の子なれば宿もさだめず」という歌や、「浮舟」からは、「舟」が流離する存在を示すうえで重要なモチーフとなっていることがわかります。「舟」と「流離」。M先生の講義を受けていなければ「むちゅうのドリー」は存在せず、まったく違う台本で冬公演を行っていたはずです。
それでは、第3回は以上です。次回のテーマは「柘榴」。久々に、日本神話とは全く関係のないお話になります。それでは、お楽しみに!
(脚本・演出 久野さい)
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山口大学演劇サークル劇団笛令和六年度冬公演
『むちゅうのドリー』
日時 :2025年2月6日(木)19:00~/ 2月7日(金)18:00~ (開演30分前から入場可能)
公演時間 :約120分
会場 :クリエイティブ・スペース赤れんが ホールⅡ (山口市中河原町5-12)
入場料 :学生1000円 一般:1200円
(当日は各300円増、ご予約は2025年2月5日までにお願いいたします))
連絡先 :MAIL gekidanfue@yahoo.co.jp
WEB gekidan-fue.amebaownd.com
X @gekidan_fue
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